2024.11.16(土) 14:00から、新横浜の貸会議室&zoomで開催しました。案内はここ
前回の貸会議室より1万円以上安くて使いやすい会議室でした。10名があつまりネットは25名ほど参加いただきました。
17:00から近くの居酒屋で懇親会。18時ごろには満員になる人気店でした(偶然ですが)
そこから3名で京都・大阪に向かいました。
勉強会は、小貫さん、岩崎さんが専門的な話をされ、渡辺さんがデータモデルをDOAの基礎から解説、それを佐野がフォローするという構成になりました。
<資料>
→小貫氏 医療ITに関するしっかりした資料
→渡辺氏 関数従属性から解き明かすデータモデル
→岩崎氏 マイナ保険証の課題
→佐野 SQL大好きな人向けの実証手順
医療、レセプト、DX、いまむかし
小貫陽介(オヌキヨウスケ)氏
大学卒業後、総合病院の医事課勤務を経由してITエンジニアへ転身し医療系のシステム開発を行っています(サラリーマンです)
1.日本の医療はIT化に立ち遅れている?
総務省の調査によると、医療・福祉関係のDXの取り組み状況は他の業種に比べても遅れている事がわかります。2021年の報告ですが、実施していないし、今後も予定なしが78.7%となっています。
医療のIT業務としては大きく「電子カルテ」と「オーダリングシステム」があります。
電子カルテ:患者に対する診療の記録。記録項目はある程度法令で定められています
オーダリングシステム:各部門システムをつなぐ役割をもつ。医師からCT依頼など
現場ではまだまだ紙カルテが多く、FAXやUSBも使われています。基幹であるカルテが電子化しないと根本的改善は出来ません。
導入できない理由は、人員不足や日本特有の制度などもありますが、医療機関の経営状況が良くないという事も大きいです。
日経メディカル「医療機関はもうけている」ってホント?によると、損益率がプラスの一般病院の比率は小さいです。国公立はほとんど赤字です。
2.日本の医療のあらまし
日本の医療の特徴は「自由開業医制とフリーアクセス、国民皆保険」です。住民は医療機関を選んで受診できます。診療報酬は2年に1度見直しするというルールがあります。
特定分野の診療報酬を上げたり下げたりインセンティブをつけて政府が誘導していますが、最近も「妊婦加算」が廃止に追い込まれたりと必ずしもうまくいっていません。
3.日本の医療情報システムの歴史と課題
1960年代末~1970年代:医療機関の各部門ごとにコンピュータ導入。部門間は紙伝票
1970年代後半~1980年代:各部門システムを統合。オーダエントリシステムが登場
1980年代後半~1990年代:診療支援機能を備えていく
1990年代中盤~2000年代:基準を満たせば電子カルテが認められた
※「電子カルテ=完全なペーパーレス」というわけではない
2000年代~現在:施設間の通信や連携に課題。様々な医療系ITサービスが登場
JAHISが定義したシステム化のレベルを見ると、多くは部門内~医療機関内まで。たまに複数の医療機関間のシステムがある程度。
グローバルには、HL7 FHIR(ファイヤー:Fast Healthcare Interoperability Resources)という医療情報の交換・共有のための世界的な標準規格があります。日本でも2010年から、HL7をベースに厚労省標準規格の制定を開始しています。
4.国の動向と医療DXのこれから
「医療DX」という言葉は行政でも多く使われています。
今回の渡辺さんのデータモデルを見ると、傷病から処置をリコメンドできるような機能があり「そういう方向性もあるな」と気づきがありました。
みなの衆、医療DXのためのデータモデルを考えようではないか
渡辺幸三(DBC代表)
1.プロセス指向からデータ指向へ
プロセス指向アプローチ(POA)ではDXは無理なのですが、多くのDXプロジェクトはPOAで頑張り失敗が多いです。POAの長所は特段の適性や訓練がなくても取り組めるというところですが、現状と変わり映えのしないシステム仕様が生み出されるという短所があります。
データ指向アプローチ(DOA)の基本を知らない「なんちゃってデータモデル」も散見されます。
2.データモデルの考え方
主キーと属性の関係をリレーションと呼びます。関数従属性とも呼びます。
y=f(x)またはx→yと表記します。
xが決まると(主キーが決まると)yが1つだけ決まる関係です。yが複数になることはあり得ません。変数xから見てyの値は1つしか対応しません。
複数の変数を組み合したものを「複合変数」と呼びます。主キーでいうと複合主キーです。
z=f(x、y)
計算で求める事ができるもの(プログラマブル)であればデータベースでもたす必要はありません。コンピュータで実現できます。計算で求められない情報を「値併記方式の関数」としてデータベース(RDB)で扱う対象とします。
例:都市xの緯度、都市xの年yにおける税収額
3.「医療DX」向けデータモデルの解説
3-1. 処理フローと登場人物
現行では、被保険者(患者)が医療機関で保険診療を受けるところからスタートします。今回の新データモデルでは<診療データ管理プラットフォーム>から事前に<標準保険診療モデル>が提示され、それを元にレセプト(診療報酬明細書)を毎日送信されます。
そのため費用支払いが早くなります。
3-2. マスター(1) 検査と処置と処方
※その他モデルの読み方は細かく資料に書いていただいていますので是非お時間をかけてお読みください。
マイナ保険証における健康保険資格反映のタイムラグ
岩崎和隆氏(神奈川県庁)
退職や転職されると、健康保険資格が変更になります。資格喪失から、(転職などで)資格を再取得する時のタイムラグが、紙の保険証とマイナ保険証でどう変わるか見てみました。
紙の保険証
再就職して、紙の健康保険証を受け取るまでがタイムラグになります。健康保険組合によっては、データベース登録前に紙の健康保険証を交付してくれたり、被保険者資格証明書を発行してくれる場合もあります。
マイナ保険証
地方自治システムの先進国であるエストニアでは、資格喪失から一定日数は前の資格が有効になるというルールでタイムラグをなくしているとのことです。法整備が必要ですが、日本でも参考になります。
※資料には業務ルールの見直し方を付けましたが時間の関係で説明は省略します
医療DXとは言っても・・・
佐野初夫(テラスカイ)
データモデルが正しいかどうかどやって確認するか
データモデルだけを見ても、それが自分の業務で本当に有効なのかなかなかご理解いただけません。それが出来るならこっちの世界(IT技術者)の方でしょう。
そのため、現状の本物のシステムを何とか新しいデータモデルのテーブルに一部だけでも移して、現場の利用者に納得してもらう必要があります。
それには、DOAを基盤としたローコード開発ツールが重要です。本番稼働のシステムをローコードで開発するかは別の話です。新しいデータモデルを検証するためにはローコード開発ツールが重要な役割を担います。
ローコード開発ツールTALONであれば、自分でSQLを書くだけで様々な場所にあるRDBから情報を集めて画面や帳票が簡単に出せます。
SalesforceのHealth Cloudのデータモデル(一部)
世界標準であるFHIR準拠のオブジェクトと、HealthCloudで使用するオブジェクトを頂上的に持ち、マッピング出来る仕組みとなっています。
※おまけに、ANSI三層スキーマと概念/論理/物理データモデルの例などデータモデリングの基本情報を付けました。
<所感>
今年になって新横浜開催が2回目です。大阪とは異なる方々が集まって下さるので新しい刺激があります。今回は小貫さんに、医療のIT化についてしっかり教えてもらえたことが大変勉強になりました。また岩崎さんがマイナ保険証の課題について指摘されたことも最近の話題に通じる話でした。
渡辺幸三さんが関数従属性を基礎としたDOAをしっかり解説頂いたことも有用だったと思います。この件に関してはIT勉強宴会として動画公開していますので是非ご覧ください。
次は第100回ですね。特に何も考えてませんが。
以上